MAZDA前田育男氏 「マスを狙う日本&ドイツ車はMAZDAの敵ではない・・・」

全方向に喧嘩!?
聴き手を務める日経BPの幹部が、広島時代の同級生だったという縁があって出版されたと思われる、MAZDAデザインの総帥・前田育男氏の待望の新刊「相克のイディア」が発売された。簡単に要約すれば、「理想のデザイン」へ至るエゴイズムをあらゆるレベルで考え抜くことで、自動車メーカーMAZDAと、デザイナー前田育男と、クルマ文化を楽しめる未来を・・・なんとか切り開ける。そのためにも「クルマ作りの本質」をより多くの人にも考えてもらいたい!!ってことらしい。


企業人の理念
2兆円を超える売上を誇る日本でも10指には余裕で入る巨大メーカーの取締役であり、世界からもその仕事ぶりが高く注目され業界では「時の人」でもあり、そんなプロ中のプロが自らの仕事の秘訣を語る・・・という意味では、ここ数年で最も価値がある日本人によるビジネス書だと思う。還暦間近のオッサンの対談本なんて大概は「浅さ」しか見えてこない茶番ばかりではあるけど、これは全くの別物で、紛れもない「本物」である前田さんだけあってとにかく強烈に面白い。


5分でできるデザイン
いや・・・予想を大きく超えて現場デザイナーが抱えるかなりの「本音」が詰まっているように見受けられる。1つハッキリと言えることは、新型ハリアーを買おうとしている人は絶対に読まない方がいい。あのクルマに代表されるような昨今のデザインが、本編の中でとことんバカにされている(専門家の視点では)。前田さん曰く「5分でできるデザイン」だと社内で話しているらしい。別に時間をかければ良いというものでもないだろうが・・・。



MAZDAだから面白い
全ページカラー装丁の豪華版だけども、1ページ毎に入魂されている「想い」だったり「怒り」だったり、そして時には「侮蔑」だったりが怒涛のごとく押し寄せてくる。「MAZDA」という素材が極上なのは疑う余地はない。トヨタ、日産、ホンダ、スバル、ポルシェ、メルセデス、BMW、アウディ、VWなどではここまで面白いクルマの本はできないだろう。


クルマ作りの正義
最高のエンジン技術、シャシーやミッション、そしてデザイン。それぞれを担当する部門がプライドを持って正義を貫くから「MAZDA」は唯一無二で孤高の自動車メーカーとして超越した存在になれる。まあ言わんとすることはわかるし、MAZDAはそれを言う資格がある希少なメーカーの1つだ。「BMWもアウディも200万台を超えて完全にマスに成り果てた」と名指しで書いている。200万台を超えてさらに台数を伸ばすことは、もはやそのブランドがクオリティを放棄したと同じだってさ。確かにBMWもアウディも販売の半数以上はすでにブランドが誇るクオリティとは全く別のクルマに成り果てているのは事実だし、前田さんもそれを皮肉っているのだろう。


何もかもが未達成なのに言ってしまうところが面白い
ラインナップの全体が「MAZDAクオリティ」であることにこだわっている自負だとは思うが、現状のMAZDAでもロードスター以外のモデルは、それほど強烈な個性を発揮できてはいない。デザインも乗り味も他のメーカーより数段マシな仕上げは施されているとは思うけど、前田さんがこの本で主張するような「究極の造作」の段階までは到達してはいない・・・。



そうだ!!
「MAZDAは機械式時計」
「日本はカッコ良くクルマを乗りこなす大人がいないからクルマ離れになる」
本編で前田さんが放った2つの金言に少々心が震えた。これまでずっとブログであれこれ書き続けてきたことをそのままMAZDAの「司令塔」とも言える役員様がズバリと「本質」として語ってくれた。前編カラーページの写真に収まる前田さんは確かにメチャクチャ「カッコいい大人」であり、素直に憧れる・・・。


尺度
トヨタなどの他社メーカーとMAZDAのクルマを比較することに違和感すら感じてしまう。一般ピープルならまだしも、AJAJ会員の自動車ライターでこの両者を同じクルマとして比較レビューされてたりすると、この人はクルマを愛でるまともな基準(物差し)を持っていないのだと思う。英国ライターに言わせるまでもなく、カローラとMAZDA3は全然別の次元のクルマ。耐久性自慢の「G-SHOCK」と、ひたすら美しく動く「オリエントスター」をある種の基準で一義的に比べるなんて全くもってナンセンスだ。


反撃開始・・・
自動車業界の趨勢がやや見えてきたところで、本編は前田さんからカーメディアへの痛烈なレス(しっぺ返し)だ。もう5年以上もずっと多くのカーメディアとAJAJのライターたちは「MAZDAはお金がないからターボ化&多段化できない」と平気で書き続けてきたけど、その愚鈍さが徐々に明らかになってきたところで痛烈な「クルマ本質論」を浴びせている。最近ではポルシェが「ターボの効率に疑問」と発表するなど、MAZDA周辺に限らず「本質」を追求するメーカーでは新しい局面を迎えてつつある。上質なクルマとは何か?を考え抜いて自然吸気&6速ATを使い続けたMAZDAに対して、AJAJの連中は今頃になって何を思うのだろうか!?


奴らは何もわかってなかっただけ・・・
MAZDAの批判をすれば雑誌は売れるのかもしれない。しかしAJAJの連中が5年以上に渡って書き続けてきたMAZDAへの中傷は、結果的に自らが自動車評論家としてまともな見識も審美眼を持っていないことを明らかにしただけだ。ベストカー、ニューモデルマガジンX、ドライバーの3誌はまるでMAZDAレビューの定型文として「早くターボ化&多段化しろ!!」と付け加えていたっけ・・・。


不健全なカーメディアに一石を投じる
この本は、クルマの良し悪しを語る議論の前提がメチャクチャになっている現状であったり、多くのユーザーが路頭(判断)に迷っている日本市場に正しい道を示すことで、その未来を照らそうとしている(やっぱり宗教?)。あくまでMAZDA側の主張に過ぎないけども、人見さんのエンジン論も前田さんのデザイン論も、あらゆる状況を考えて主張されていて、決して独善的なものに囚われないだけの十分な知性に溢れている。他の日本メーカーやドイツメーカーがどのような「バイアス」(営利論)でクルマをいかにコジらせてしまっているかを合理的に紐解いた上で、伝統と共にある新しいマツダのブランド論を緻密に構成している。


柳宗悦
まあ少なからず、他社の開発者が読んだら激怒もしくは激しく気落ちしてしまいそうな際どい内容が含まれているけども、エンジンにしろ、デザインにしろ、自らで考えて理想に近いものを構築する「能力」があってこそ、自動車文化を守れるメーカーってもんだろ!!と力強く自らを『魂舞』している。スカイアクティブXという「未来への微かな希望」を湛えた尊重すべき優秀なユニットは、補機が多く洗練されたボンネットに収めるのも一苦労だけど、それでもデザインの精度を落とさずに「感動」のレベルまで磨き上げる。この仕事こそがMAZDAデザイナーの誇りだとも言っている。感無量の工芸論だ。


前田育男・不退転の決意
「ペリフェラルローター」(カール F.ブヘラ)、「エル・プリメロ」、「スプリングドライブ」など機械式時計には数々のムーブメント機構があるけども、マスという意味での合理性など、かなぐり捨ててMAZDAは「スカイX」にこだわった。AJAJの連中と日本のユーザーの多くはその意味が理解できなかった。世の中の「趣き」を理解しようともしない人々の意見など本質的には無価値だ。前田さんもデザイン本部長になって、まず真っ先に「プロトタイプ」を一般ユーザーに見せてフィードバックさせる従来の手順を撤廃したらしい。おそらく「趣き」を理解しない人々の意見など、自らが指揮をとるデザイン群にとっては完全に「無価値」なのだろう。







コメント

  1. 「イデアの相克」良書をご紹介あるがとうございました。三度読みました。
    未だ難解だと思っております造形美術の理解の切り口が増えて、いくらか視界がよくなりました。美術館や博物館に行くのが楽しみです。
     機能・効率・コストに過剰適応した結果、クルマや服のみならず、あらゆる商品やサービスが高級品は記号で・普及品は価格で選ばれいや格安品を借り物で済ませるようになりつつあります。そんな中、国家や文明の有り様さえ規定する最先端の工業製品を生み出す方が、造形作品のぬくもり・あたたかみ・息づきを語り、自ら鎚を取って刀を鍛え、「マーケット」の言葉を拒否する。頼もしい限りです。
     前田氏は造形作品と工業製品、芸術作品と量産商品の相克に悩み続けるのでしょうが、それはそれを善しとするマツダに身を置くが故の苦しみであり喜びなのでしょう。申し訳ないがありがたいです。
     重ねて良書のご紹介ありがとうございました。

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