島下泰久さんに烙印を押された現行モデル

 

2024年版 間違いだらけのクルマ選び



面白くなっている

毎年暮れに発売される「間違いだらけのクルマ選び」の2024年版を、なんとなく惰性で買ってしまう。クルマ初心者にもわかりやすい内容で、1台当たりの紙面も限られていてあまり突っ込んだ内容ではないので、失礼だけど夢中になって読むような本ではない。それでも買ってしまうのは、2016年から前任者を引き継いでこのシリーズを切り盛りする島下泰久さんが必死で続けている姿が微笑ましくて応援したいのと、自分とは意見がかなり違うタイプのライターだからこそちょっと読んでみたいと思えるところだ。


読者離れや出版不況によってこのシリーズの販売低迷が囁かれていたが、紆余曲折の末に、2021年版からはメーカーの開発担当者のインタビューが掲載されるようになり、コンテンツもかなり充実してきた。記念すべき最初の2021年版に登場したメーカー担当者は、レクサス・インターナショナル・プレジデントを務めていた佐藤恒治さんで、ご存じの通りの豊田章男社長を引き継いだ現在のトヨタ自動車の社長である。1回目の人選からして大当たりと言っていいかもしれない。



インタビューが増強され読み応えアップ

2022年版はホンダの特集が組まれ岡部宏ニ郎さんが登場し、2023年版はMAZDAの巻頭特集で廣瀬一郎さんが登場した。島下さんが「RIDE NOW」というユーチューブチャンネルを地道に運営し、単なるAJAJライターではなく、発信力・影響力をもつ自動車インフルエンサーとしてメーカー側に認知された結果だろうか。あるいは自動車メーカーがセルフメディアを運営する時代に変わり、しがらみがたくさんある大手メディアや大手出版社からの出版ではなく、このシリーズが一番発行部数が多いというちょっとマイナーな出版社(草思社)の発行なので、メーカー側も与し易いのかもしれない。


2024年版にはどこのメーカーの人が出てくるか?と思っていたが、今回はまさかの3人登場で、巻頭特集が本編の半分を占める巨大コンテンツになっています。しかも1人はあのダイハツの記者会見でメディアの前に登壇したあの人だ。島下さんは引きが強い!!佐藤さんに続いてまたしてもピンポイントな人を引き当てている。ダイハツ不正の会見ではメディアの若手記者を低い声で恫喝するような答弁が印象的な強面な人だったけど、この本のインタビューでは「カッコいいクルマがすっごく好きなんです」みたいな、なかなかチャラいことを仰っている・・・。



勝手な解釈

この「間違いだらけのクルマ選び」の巻末には面白いものが付いている。毎年本編を見る前にこれを読んでしまう。それは本書に掲載されている市販モデルを採点した総合の「通知表」がある。島下さんの主観による評価なので特段に文句を言うつもりはないが、読者が見て受ける印象を考えるに、総合評価の得点が10段階で「5」以下という低い評価は、実質的には「死刑判決」を意味する。これを読んだ人は誰も買わないだろう。そして「7」以下のクルマに関しても読者には全く良い印象は与えられないから、「引退勧告」くらいの意図があると思われる。


2024年版で「死刑判決」が出たモデルは4台だった。1台目は「ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ」で評価は「4」である。生産が中断されているけども日本市場屈指のベストセラーモデルだけども、売れ過ぎて市場を捻じ曲げるクルマにはあまり良い印象がないのかもしれない。肝心の本編を読んでみると、2023年5月にロッキーとライズのHEV(ダイハツ版e-POWER)が販売停止になり、エンジン版のみ出荷されていたが、年末になってこちらも巻き込まれた。本編の加筆は間に合っておりません。真面目なAJAJライターとしては、とりあえず「オススメできない」という納得の意見。



日産だって困っているのでは?

2台目は「日産・リーフ」で評価は「3」だ。バッテリーの原材料価格が大幅に高騰していて、相次ぐ価格改定で全然お手軽なクルマでなくなったので、当然これもオススメできない。ロングレンジモデル「プラスe」(航続距離550km)は、上級BEVのアリアのベースモデル「B6」(後続距離470km)と同じくらい(538万円〜)に設定されている。アリアのロングレンジ「B9」は公式ホームページから削除されており受注停止のようだ。


日産としては2028年に全固体電池搭載の1000km航続のBEVを販売するそうなので、残り4年くらいはこのまま「死んだフリ」のBEV戦略を続ける気がする。全固体電池はコスト面に課題があって2000万円くらいするスーパースポーツにしか使えないとかいう報道もあるので、GT-Rの後継モデルなのかもしれない。他にも優れた電池が開発されて、アリアやリーフの不自由な現状は改善されると思われる。



「デスノート」

3台目は「レクサスES」で評価は「5」だ。レクサスのグローバルでの稼ぎ頭のモデルに対して、本編でも痛烈な言葉が並ぶ。確かに日本でもほとんど見かけない気がする。レクサスLSをアメリカ人が好む合理的な設計でカムリベースで仕立てたモデルで、北米ではメルセデスEクラスやBMW5シリーズと同等の価格でかなり良く売れた。それならば日本でも売れるだろうと、レクサスGSを置き換えた訳だけど、GSの方がまだまだ良く見かける。そう言えば島下さんのお気に入りでもあったな。


レクサスESはまだ日本撤退はしないようだけど、カムリやMAZDA6などの同じような仕立てのセダンは次々と日本市場から消えていった。ちなみにMAZDA6は「間違いだらけのクルマ選び」2020年版で総合評価「7」となり「引退勧告」されており、2021年版からは通知表から除外された。カムリは2021年版で評価「7」を受け、2022年版から除外されている。恐るべき島下さんの「デスノート」である。



メーカーの意図を深読みすれば・・・

4台目は「トヨタ・シエンタ」で評価は「5」。2022年版までは個性的なスタイリングが光る先代モデルだったため、モデル末期にも関わらず島下さんは「8」をつけて絶賛していた。5ナンバー3列シートミニバンならば最強の1台だと断言していた。それが2023年版から現行モデルに変わり、5ナンバーミニバンとしての機能性や予想以上に良い走行性能こそ評価していたが、お気に入りだったデザインが某フランスメーカーの有名な商用車にソックリになってしまいボロクソ評価の「6」を下していた。


ノアやヴォクシーも大幅値上げで乗り出しが400万円台後半というご時世で、まだまだ乗り出し250〜300万円で済むシエンタは、親孝行な子育て世代にとっては代えの効かない存在になった。少々癖があるアバンギャルド(ちょっと幼稚?)なデザインより、長年親しまれているスタイルを拝借しようってトヨタも考えただろうけど、島下さんの評価は2024年版でも厳しいままでいよいよ「死刑宣告」となった。2025年版には生き残っているだろうか?



どんどん現行モデルは消されている

2024年版での「死刑判決」は以上の4台だけだが、現行市販モデルの中には既に過去の年度版で「死刑判決」されて、2024年版の通知表からは外されてしまっているモデルも複数ある。もしかしたらメーカーから苦情がきて「当該モデルに関しては今後は掲載しないでください」との要求を呑まされている可能性もある。2022年に比較的に本シリーズで高評価が多いMAZDAのCX-3が「5」の評価を受け2023年、2024年は姿を消している。


2022年に「5」の評価を受け、さらに2023年には「4」と評価されダメ押しされたのがトヨタ・ルーミー/ダイハツ・トールだ。トヨタ系ディーラーが日本中の高齢者ユーザーを一件一件回ってゴリゴリに売ってきたダイハツ生産モデルだ。使い勝手が良さそうなのでついつい買ってしまう人も多いようだけど、実家に営業がかかった時に相談され、この島下さんの本の評価があまりにも低いので慌てて他のモデルに変えさせた。賞味期限切れのクルマに関してはかなり的確に教えてくれるシリーズだと思う。


2024年版 間違いだらけのクルマ選び
















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