2024年こそカーメディアは「日本車はゴミ」というべきではないか?


 


カーメディアの記憶

テレビなどのメディアでは、しばしばコンプライアンスが厳しくて過激な表現ができなくなった・・・という創造性の欠如を覆い隠す無意味な説明をよく聞く。カーメディアも状況は同じようなもので、福野礼一郎さんは「カーメディアで本音を書く馬鹿はいない」と言っている。YouTube動画ではそこまで規制が厳しくないようで、若者を中心に視聴者がテレビからYouTubeへ移っている。カーメディアも動画が中心になった。既存の雑誌はコンプライアンスでガチガチなので、広告主であるメーカーの機嫌を損ねるライターは、次々と締め出されていく。


この流れは今に始まったことではなくて、2006年に福野礼一郎さんが主筆となって「クルマの神様」という新しいタイプのクルマ雑誌が試行された。誌面から企業広告を一切排除して、クルマの写真集のような永久保存版の雑誌を目指したようだが、あまりのアート志向なのか誌面そのものに大きな余白があり、福野さんの美学を理解するファン以外の、情報を求める読者には響かなかったようだ。合計2冊が発売されているが、豪華な装丁なので、20年経っても写真はきれいなままだ。



平成は貧しかったのか!?

2006年当時の新車の価格表も付いている。2007年の12月に日産がR35GT-Rを発売するちょっと前のタイミングであるが、いうまでもなく2024年とは別次元の価格だ。軽自動車だけでなくパッソやソリオなどの普通乗用車でもベースグレードの価格は100万円を下回っている。130万円くらいでカローラやインプレッサなどの定番のCセグが買える。各メーカーともにラインナップの大半が100万円台スタートで、ブランド全体に高級感はない。GT-Rの発馬時にディーラーのイメチェンが要求されたのもよくわかる。


マークXやアコードなどちょっと高級なモデル(ハイソカー)が200万円台スタートで、フーガやクラウンなど日産、トヨタのフラッグシップサルーンだけが300万円台スタートだ。レクサスは日本に導入されたばかりで、ISとGSが400万円以上の価格帯中心で配置されている。当時のレクサスはあまりに価格が高過ぎたようで、「販売面で苦戦している」と書かれている。18年前の価格と比べると、2024年の同型モデルは、ほとんどが2倍以上になっている。日本の消費者物価指数が同じ期間で1.2倍程度しか増えていない(むしろデフレ局面だった)ことを考えると、異常な伸び率だけども、カーメディアも一般メディアもこのことを一切報じない。



自動車のインフレ率は異常事態

中小企業や個人農家が生産することが多い食品や日用雑貨品と比べて、自動車組立工場は圧倒的な大企業しか経営できないこともあり、巨額な利益を分捕りにいく業界の推進力は他の商品よりも圧倒的に高い。例えば腕時計も一部の超一流ブランドのものならば、クルマと同じ水準の価格上昇を起こしているけども、腕時計だと新規参入の障壁もクルマほど高くないので、機械式だろうがクオーツ時計だろうが、大多数のモデルは目に見えて高額にはなっていない。日本市場の普通自動車の価格が、パテックフィリップやランゲ&ゾーネのように上昇するのは不思議だ。


全ての日本の自動車メーカーが「贅沢品」に相当するクルマばかりを生産していて、そのほとんどが富裕層や所得に余裕のある中流以上の人々相手の商売だというのなら、極論に聞こえるかもしれないが、中国・インド・ASEAN地域のメーカーに市場を明け渡すべきだと思う。ホンダやスズキがアジア生産の小型SUVを日本でも流通させるようになっているけども、実勢価格は日本市場で他車とバランスの取れる範囲で調整されている。日本よりも所得が高いはずのEUでは、すでに中国メーカーなどから多数の供給を受けているのだが。



官製カルテル!?

高度経済成長期より日本の自動車産業は国の原動力だとして保護されてきた。低価格で高品質な製品を供給するという2006年頃の方針のままならわからないでもない。コロナ後の日本では官民一体となって「賃上げ」に邁進している。クルマ、ガソリン、電気、ガス、住宅、コメ、肉といった必要不可欠なところに積極的な値上げを働きかければ、生活が苦しくなる国民は必死で働くのかもしれない。労働者の不足もあって、従業員から雇用主に対しても賃上げ要求は強くなる。会社がどこに移転しても、都市部では住宅手当が致命的に不足するし、地方ではクルマにかかる費用が嵩む。


中国共産党にも負けない手際の良さで、国民を搾り上げるフェーズに入った。無駄な残業はワークライフバランスの建前で、徹底的に制限されたので、豊かな生活のためには短い労働時間で効率的に業績を叩き出す必要がある。自動車メーカーに限った話ではなく、どこの企業も厳しい努力が求められている。1台=200万円くらいの普通乗用車を売る時代はとっくに終わった。普通乗用車主体のメーカーならば、1台=400万円以上の単価を出さなければ、十分な賃上げはできない。



500万円で売れるわけがない

平均が400万円以上なのだから、500万円、600万円くらいでも普通に売れるクルマを作らなければならない。この価格帯で勝負するなら、直列6気筒を縦置きするしかない・・・と腹を括ったMAZDAはそこそこの結果を出した。それに対して、三菱、日産、スバルは既存モデルの設計を変えずに、外部から調達した自動運転機構などをアピールして、価格を300万円台から500万円台まで引き上げた。露骨な価格アップはユーザーに見透かされてしまったようで、日産や三菱の2023年度はかなり厳しい結果になった。。


スカイラインは500万円台で売れ続けるけど、エクストレイルは500万円では売れない。ハリアー、RAV4、CX-5も客寄せグレードだけ300万円前後ではあるが、標準的な機能を持つ売れ筋は400万円が当たり前になっていて、以前と比べると売れ行きは相当に下がっている。CX-5の2.5LガソリンAWDモデルは初期モデルでは300万円を下回る設定だったが、今では400万円のグレードのみとなっている。トヨタもMAZDAも客単価を上げることにばかり頭を使っている。



新しい販売手法

レクサスLBX・MORIZO・RRというスペシャルなクルマが発表された。何らかの条件付きの抽選販売が行われるようだ。これはフェラーリやポルシェの手法を真似ているようだ。正式な情報は発表されていないが、レクサスの1500万円くらいするフラッグシップLS、LC、LMなどの現行モデルを購入している顧客が優先的に対象となるのだろう。この手法がうまく行ったらば、今度はレクサスLFAみたいなウルトラモデルを復活させるかもしれない。多額のお金を使ってくれたユーザーには、絶対損しないモデルを渡してwin-winの関係を築く。


他社のやることをよく観察しているMAZDAも、極秘に開発していて特許まで出されている噂のロータリースポーツカーを、CX-60やCX-80など500万円を超える高額モデルのユーザー優先で限定販売する可能性もある。スバルにもWRXのMT車復活というカードがある。トヨタ陣営と対峙するため大同団結した日産・三菱・ホンダにもそれぞれ、GT-R、フェアレディZ、ランエボ、NSX、S2000、シビックtypeRを開発して、フラッグシップモデルのユーザーだけに販売すればいい。



500万円の価値があるのか!?を知りたいのだ

日本メーカー6社はいずれも世界的なハイエンドスポーツカーを作るだけの技術力と歴史を持ち合わせているのだから、フェラーリやポルシェのような圧倒的なブランド力で単価を上げている販売は可能だ。クルマから離れてしまった若い世代は、所帯染みた大衆車が並ぶディーラーより、日本の主要ブランドが一般ユーザー向けに付加価値の高いクルマを用意するビジネスを望んでいると思う。MAZDAへの注目度の高まりはディーラーの変貌と無縁ではない。


10年前のカーメディアは、まだまだ「日本車は大衆車で、ドイツ車には勝てない」と上から目線な雰囲気が残っていた。それがいつしかスライドドアのミニバンを「スポーツカーだ!!」と持ち上げるライターが続出する事態だ。こんな腰抜けな媒体ばかりだと、クルマへの注目度は高まるどころか、クルマ離れは加速する一方だ。大半が100万円そこそこだった時代の日本車を「安物」と言ったところで何の意味があったのか?各社が用意する500万円超えの看板モデルを、海外のカーメディアのように「このBMWはゴミだ!!」くらいに放言するメディアがあってもいいと思うが・・・。



クルマの神様 (1) (別冊CG)


クルマの神様 (2) (別冊CG) 

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