福野礼一郎さん「MAZDA車はカッコ悪い。デザイナーが何もわかってない・・・」
新シリーズ創刊!!
CX-60の発売と同じくらい嬉しいことに、福野礼一郎さんの新しい単行本シリーズが発売された。「福野礼一郎・スポーツカー論1」という題名だからには「2」「3」と「ゲンロク」の連載が続く限りは、毎年この時期(6月頃)に1年分のレビューをまとめて出版してくれそうだ。世紀の大傑作だった「世界自動車戦争論1」は直後のリーマンショックで業界が大きく変わってしまい「2」が出なかった(20年スパンで2028年とかに出る?)。毎年発売されているモーターファンイラストレーティッドの連載をまとめた「クルマ評論」もあるけど、もうどんな内容だって買うから、とにかくずっと出し続けてほしい。
永久保存版の傑作
ごくごくメジャーな乗用車をレビューする「クルマ評論」とは違って、完全に趣味の世界の2シータースポーツカーだけを相手にする「スポーツカー論」なので、福野さんの本領発揮なところがとにかく面白い。ある程度は読者が限定されることもあって、ファンの期待通りにメチャクチャに突っ走っている。ほんの一部をネタバレさせてもらうが、詳細は書きませんし、興味のある方は実際に読んでみることをオススメする。自動車雑誌2〜3冊分くらいの税込2640円だけど、雑誌買ってもほとんど福野連載しか読まない人にとっては12冊分の価値はあると思う。
MAZDAとポルシェをボッコボコ
この投稿のタイトルにもあるように、MAZDAのデザインが「本末転倒」だという福野理論は、コアなMAZDAファンほど妙に納得してしまうのではないか!? MAZDAとポルシェ以外は買わない主義のブログ主としては、この本でこの2ブランドが徹底的に叩かれているのがとにかく新鮮でしかない。「もうこの2ブランドは脳死状態」と言わんばかりの怒涛の福野節に圧倒された(筆力がハンパない)。ちなみにレビュー対象として登場する日本ブランドはMAZDAのみだ。BMW、アウディ、メルセデス、レクサスといった「非スポーツカーブランド」は一切登場しないのだけど、とあるエピソードからメルセデスが強烈に被弾。「ブタ」とかいう差別用語はさすがに時代を感じて苦笑いだが・・・。
線引き
この本を読んで怒り出すMAZDAファン(にわかは除く)ってほとんどいないと思う。ポルシェファンにしても同じだろう(にわかなユーザーのリアクションは想像できないが)。もうグウの音も出ないほどに徹底的に叩かれてるけど、本書ではまともに相手にもされていないメルセデス、BMW、アウディ、レクサス、日産GT-R、トヨタ86、スバルBRZなどとは違って、ピュアスポーツカーを作り続ける選ばれしブランドという「別次元」な括りでの厳しいご意見である。この線引きがあるからこそ破茶滅茶な暴論でもカネを払って読みたい読者が殺到するのだろう。
買うべきクルマがわかる本
某芸人Yが、BMWi8からマクラーレン720Sに乗り換えたのは、この本(または連載)を読んだ影響かもしれない。ハイスペックなスポーツカーを所有することをSNSでアピールする「クルマ好き芸能人」としていろいろな戦略があるのだろうけど、いまいちBMWでは勢いが点かない!?そんな立場の弱さを悩んだ末の決断だとは思う。芸能人のSNSでの「愛車アピール」はデメリットも多いだろうから、ある程度はステルスマーケティングの一環なのかな!?という気もする。芸人Yのおかげ?かわからないけど東京都港区界隈に行けばi8はちょこちょこ見かける。BMW史上最高の「映え」なので、1.5Lターボとしては想像を絶するリセール価格を実現している。
ステルスマーケティング
複数の女性タレントが相次いでメルセデスを買ったようだけど、これも代理店がらみのステマだと思われる。「両性の本質的平等」において先進国でも最低レベルのレッテルが貼られる日本においても、さすがに女性の社会進出は広がっていて、女性の輸入車のオーナーもどんどん増えている印象だ。ちょっと偏見かもしれないが男性よりもクルマを買うハードルは低そうだ。男性で年収1000万円以下だとなかなか輸入ブランドへは行けないが、女性だと年収500万円くらいでとりあえずメルセデスって感じだ。
クルマ選びの前に勉強しよう
メルセデスのラインナップも日産、MAZDA、ダイハツ、スズキのように女性ユーザー向けのものばかりがどんどん増えている。女性が乗る分にはどれも素敵だが、同じモデルがオッサンのオーナーだと(どのモデルかは伏せるが)・・・ちょっとヤバい。男性にとってクルマ選びはちょっと神経を使ってしまう、いやいや「鬼門」と言っていいレベルだ。気楽に好きなクルマを選びたいなら、とにかく誰よりもクルマに詳しくなることが大事だ。知識さえちゃんとあれば、MAZDA、スバル、ホンダなどのメインストリームな日本メーカー車でも、他ブランドにマウントを取られることなんてほぼ無いのだから。
クルマは退化している!?
昨今のカーメディアはライターの資質の問題もあるのだろうけど、メーカーが意図したクルマの「記号的価値」を盛んに語るものが増えている。ホンダにしろMAZDAにしろ1990年代から2000年頃に世界の頂点に上り詰めたが、その頃に誇った絶対的な「機能的価値」を、残念ながら現行モデルは超えるレベルで設計されていない。CX-60のような直6のFR車なんて2000年頃にはたくさんあったし、200万円台で買えていた。
批判すらできない
読者も、カーメディアも、自動車メーカーが存続することさえ難しい時代に突入していることはよくわかっている。そしてメーカーが可能な限り頑張って感動させるクルマを作ろうとしていることも十分にわかる。だからこそ20年前のクルマと露骨に比較して「機能的価値」を根拠にボロクソに批判するなんて不毛なことはしない。社会インフラとしてさまざまな人に利用される乗用車なのだから、クルマ好きの一義的で偏狭な価値感のみで、「CVTのゴミ」とか安易に切り捨ててはいけない。福野さんの通常の連載を読んでいるとその辺の配慮がよく感じられる。
ブランド離れの理由
レクサス、メルセデス、BMWのような「ハイクオリティ」を提供するプレミアムブランドに対してならば、多少は厳しい意見をぶつけても良さそうだ。しかし多くの人が感じているように、この3ブランドの「機能的価値」はこの10年余り続く停滞期が示すように、開発には否定的で他社の設計をコピーし、シャシー&エンジンまでも流用するなど、ずっとスポイルされ続けてしまった。もはやこの3ブランドにおいては、従来の「機能的価値」を理由に買う人は少数派だろう(つまりクルマ好きは買わない)。世界の消費が「記号的価値」に急速にシフトしているとする安易なコンサルの戯言に乗っかったのだろうが、かなり滅茶苦茶なことになっている。
戦略の違い
クルマ好き素人が偉そうで恐縮だが、レクサス、メルセデス、BMWは、この10年でターゲットユーザーを「クルマ好き」から「女性」へと急速に変えた。少なからず語弊はあるとは思う。例えば欧州や北米ではポルシェ911やMAZDAロードスターも「女性ユーザーがかなり多い」という反論があるだろう。しかしポルシェやMAZDAは特段に女性ユーザーを意識したクルマ作りをしているわけではない。それに対してレクサス、メルセデス、BMWはかなり積極的に「女性しか買えないようなモデル」を次々に増やしてきた。
もはやレビュー対象ではない
レクサスUXやCT、メルセデスA〜C、BMW1er、2er、X1、X2、i3などのモデルを相手に、福野さんは「ガチレビュー」などするだろうか!?過去にメルセデスAクラスをボロクソに書いたこともあったが、今ではダイハツやスズキの軽自動車よりも「配慮」した角が取れたレビューになる気がする。メーカーが女性向けに作っているクルマなのに、還暦の日本最高レベルのライターがガチギレ批判では、さすがに体裁が悪すぎる。もはやピープルムーバーしか作らない三菱や、電動車ばかりを発売する日産やホンダに関しても、これまでと同じような批判ではまるで説得力がないし、読者はついてこないだろう。
生き残り
しかしポルシェやMAZDAのようにピュアスポーツを作り続けるメーカーなら話は別だ。この手の「本物」のメーカーに対しては、真心のままにラディカルなレビューを容赦なく叩きつけるのが、最高の賛辞とも言える。ランボルギーニやマクラーレンなどのスーパースポーツブランドを除いた総合自動車メーカーで、遠慮なしに批判してもいいブランドはポルシェ、MAZDA、スバル、ジャガー、アルファロメオ、キャデラック、テスラくらいかもしれない。
幸せな「評論」がここにある
この本を読んで、ちょっと救われて気分になった。10年くらい前まではそこそこ面白かった「自動車ジャーナリズム」が、スポーツカー限定の領域ではまだまだ有効だということがわかった。それと同時にアルピーヌA110、ジャガーFタイプ、MAZDAロードスターなどの「ピュアスポーツカー」がかなり欲しくなった。何らかの事情でロードバイクに乗れなくなったらスポーツカーを買うと思う。
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