MAZDAを完全にナメたAJAJライター!?


 

読み始めて凍りつく・・・

「この10年ほどで、マツダというブランドが日本の、いや世界のクルマ好きにとって決して無視できない、注目すべき存在になったということに疑いを挟む余地はないだろう。」いきなり引用で恐縮だけど、疑いを挟む余地は・・・ある!!新刊が届いて読み出して数秒の出来事だった、狙い通りの鮮やかな先制パンチのつもりなのか、MAZDAファンの怒りの導線に火を付けている。(「2023間違いだらけのクルマ選び」の書評です)


AJAJの島下泰久さんは、MAZDAというメーカーが世界の一流ブランドと肩を並べるようになったのは「この10年余りの話だ」と言いたいようだ。そしてそれは世間の常識で「異論の余地はない」とのことだが、これはさすがにMAZDAに失礼だろ!!と思う。ユーザーにじっくり読んで貰える単行本でMAZDA特集を組むのなら、なぜこの日本メーカーが北米ブランドランキングの頂点を極めるまでになったのかについて、その概要を説明して欲しかった。



クオリティカー・ブランド「MAZDA」

日本の自動車産業にとって特別な年とされる1989年に、日産が北米で「インフィニティ」ブランドを立ち上げる。その後に日産はこのブランドを通して最高のクオリティを世界にアピールしてきた。初代セフィーロのデザイナーだった和田智さんは、すぐに引き抜かれて2000年頃にデザイン革命を起こしたアウディの原型スタイルを作り上げたことでも知られる。インフィニティ誕生の2年後の1991年に、MAZDAは日本国内向けのサブブランドとして「アンフィニ」を立ち上げる。「インフィニティ」のフランス語読みを選んだことにただならぬ決意が滲んでいる。


アンフィニ・ブランドはわずか数年で消滅してしまったが、1991年にアンフィニ誕生と共に登場した「RX7FD3S」によって、MAZDAは「価値あるクルマを独自のアイデンティティで作れるブランド」としての能力を見せつけ、この時点でメルセデス、ポルシェ、BMW、ホンダなどと同じ土俵に立った(これらのブランドの顧客を奪いに行った)。この時にすでにMAZDAだけがt使う様々な先進的な機構や、MAZDAだから生み出せる美しいデザイン・アイコンのそのどちらも存分に確立していた。2023年の現在もその延長線上でクオリティにこだわったクルマを作り続ける。



ビジネスMAZDA好きライター

2002年の初代GGアテンザは、欧州市場にコミットしたスポーツサルーン&ハッチバックだったが、エンジン、シャシー、サスペンションに至るまでこだわり抜いた力作で、欧州COTYでも絶賛された。また2001年にWTOに加盟してここから異常なレベルでGDPを伸ばす中国市場でも強烈なインパクトを残した。GGアテンザの偉業を無視してMAZDAの概略を語るAJAJライターは「ビジネスMAZDA好き」だ。島下さんの他に小沢コージさん、河口まなぶさん、池田直渡さんなどがいる「ビジネスMAZDA好き・四天王」と名付けよう。


今では信じられない話だけど、20年前はスポーツサルーンがとても人気があった。BMW・3シリーズ、アルファロメオ156、プジョー406、トヨタ・アルテッツァ、ホンダ・アコード(欧州ナロー仕様)などが、当時の欧州カーメディアで絶賛されているが、GGアテンザはこれらを相手に「完勝」と言える大成功を収めた。ライバルはグローバルで年5〜10万台がせいぜいだけど、GGアテンザは同じ市場で対峙して年20万台を超えている。



成功譚

1991年にアンフィニRX7で世界に名乗りを挙げ、2002年のGGアテンザで世界の頂点を奪取し、さらに2012年の初代CX-5は発売から2年余りで年40万台越えの超一流の量販SUVとなった。SUVブームに乗った成功と語られがちだが、世界中のメーカーが一斉にSUVを投入してVW、ルノー、プジョーなど欧州のメインストリームメーカーでもなかなか台数が伸ばせない状況だった。北米頼みで40万台を確保するRAV4、CR-V、エクストレイル、フォレスターを尻目に、カナダ、オーストラリアなど高所得地域でことごとく勝利したCX-5はグローバルで売れに売れた。


トヨタやホンダの最量販クラスのモデルが北米現地生産で積み上げるのが40万台という数字を、日本生産主体で成し遂げたのだから素晴らしい(他にはランクルくらいか)。年40万台は世界の量販車でトップクラスの数字であるけど、そこにMAZDA車が初めて到達したという意味ならば、島下さんの「この10年ほどで、マツダが・・・」という意味もわからないでもない。トヨタが「一番売れているから最も良いクルマ」というゴミみたいなデータ主義な結論を見るためにこの本にカネを払っているわけじゃない。



MAZDAのインタビューは面白いが・・・

本書にはMAZDAの廣瀬一郎専務執行委員のインタビューが収録されている。2022年に突如退任してしまった藤原清志さんが辞めていなければ、ここに登場してコンプライアンス無視の放談が炸裂したかもしれない。廣瀬さんは藤原さんとは真逆のタイプのようで、冷静で当たり障りのない言い回しで淡々と説明している。藤原さんの人気はかなりのものがあったが、MAZDAとしては藤原さんが暴走してドイツメーカーなどの悪口を言いまくったあの「黒歴史」が再現されることをよっぽど警戒しているようだ。(黒歴史とはフェルディナンド・ヤマグチさんの「仕事がうまくいく7つの法則」)


2022年版の巻頭特集はホンダだった。現役のエンジニアのインタビューがあり、「電動化はゲームチェンジのチャンスと思っています」などの見出しが印象的だ。あれから1年経ったが日本市場にはホンダの新しいBEVは無し(中国市場では「e:HS1」の販売開始)。北米市場では新しく投入した「インテグラ」が北米COTYを獲得し、北米ブランドランキングもBEV未登場だけど、スバル、MAZDA、BMWに迫る4位にまでジャンプアップしてきた。



2023年の展望は!?

2023年版の本書に特集されたMAZDAだから、なんらかの飛躍の年になるのかもしれない。年末に発売された新刊なのに、2023年のMAZDAの見通しは全く語られていない。昨年11月のファンフェスタで、パイクスピークに参戦する4ローターで武装したMAZDA3が公開された。アメリカ市場のモータースポーツイベントに参戦するのは、明らかにマーケティングなんだろうけど、CX-70&90だけでなく、GT-Rやコルベットのようなスーパースポーツも発売する可能性が出てきた。


まともに手作りしたらどんな価格で売っても利益は出せないだろうけど、ロードスターも混流生産のおかげで黒字を確保している。GT-Rも15年以上前から乗用車ラインに混ざって生産されている。アンフィニと名乗ったり、魂動デザインのベースを2010年発表の某インフィニティ車に求めた過去からも、MAZDAの日産フリークぶりは隠せない事実だ。GT-Rと同じように混流生産でRX-9を作ることは、ずっと前から温めていた構想だと思う。



1991年から始まった・・・

「MAZDA10年説」を語り2012年以前のMAZDAを無視するAJAJライターであっても、ロータリースポーツが復活し、「MAZDAクオリティカー30年計画」の結実を目撃すれば、その軽薄で無神経な主張を撤回してくれるかもしれない。1991年に3代目RX7と共にクロノスというモデルが登場し「GE」という車台コードが与えられた。ミドルクラスのサルーンをまだ少数派だった3ナンバーに仕立てたことで日本国内では失敗と言われたが、MAZDAがグローバルを意識したクルマづくりを明確に打ち出した記念すべき一歩だったと思う。


時代には1997年に「GF」カペラとなり、2002年に「GG」となった。見事に伏線は回収されている。2012年にCX-5、2022年にCX-60と10年周期で渾身のフラッグシップモデルが出てくる。もう狙っているとしか思えない。2032年にはどんなMAZDA車が登場するのだろうか。せっかく島下さんがMAZDA特集を書いてくれたが、最初の1文で怒りに震えてしまって、その後の内容はフラットに頭に入ってこない。MAZDAのエモさを「販売台数」とか「価格」とか「燃費」で四角四面にレビューされても何も伝わってこないけどさ。


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