小学館新書「EVショック」 ユーチューバーが描くクルマの未来



AJAJ激震!!素人がクルマの本を書く時代


 「EVショック」の著者はユーチューバー「EVネイティブ」さんといい、動画活動ではエンジン車に乗っている旧世代の人々を「あちら側(仮想敵国)」とし、「こちら側(EV推進派)」の主義・主張をわかりやすく展開されている。対立構図はチャンネル登録者を増やすポピュラーな方法だと思う。ネットメディアは「社会の分断」を生み出す傾向があると問題視されるが、カーメディアの場合は雑誌媒体の時代であっても十分に分断は起きていたので、なんでもネットのせいにするべきではないかもしれない。


説明が丁寧で非常にわかりやすいのだけど、意見が過激なので、この方に対しては好き嫌いが大きく分かれるんじゃないかと思う。MAZDAのBEV(MX-30)がデビューした頃には、「このメーカーは根本的に間違っている!!」くらいに批判していた。また急速充電設備の普及を目指す協会にMAZDAが加盟していないことに対しても、「充電設備の普及にはびた一文払わず、MAZDA車は他社の設置した充電設備を使うのか!?」など最もらしく断罪していた。現実にはMAZDAディーラーでは自宅充電設備を持たないユーザーには販売しない方針を採っている。ちょっと見解の違いがある。



出版業界は制約が多過ぎる!?


トヨタbz4Xの充電性能にも大声で苦言を呈していた。充電率が80%以上になると充電性能(速度)が一気に落ちることを実験で示したまでは良いけども、その結果を持ってトヨタ(スバル)のBEV技術は遅れていると判断していた。スペック主義のトヨタがそんな愚かなことを許すだろうか。実際には100%充電してしまうとリチウムイオン電池の寿命が急激に落ちるため意図的な制御が働いているだけで、過充電によるバッテリー温度の上昇など様々なリスクを避けている。世界有数の品質管理を誇るトヨタだけに安全&品質第一に設計しているわけだ。


動画で繰り返し発信されていたMAZDAやトヨタに対する批判はこの本の中には登場しない。理由はわからないけども、視聴者から何らかの指摘がされたのかもしれない。youtubeではとにかく舌鋒鋭いけども、残念ながら新書では完全に牙が抜かれている。出版社への配慮などいろいろな事情があるのだろう。有力な広告主である日本の自動車メーカーを怒らせるのは、どこの出版社であっても得策ではないし、批判したところで評価が上がるわけでもない。



若者の方がクルマがわかってる!?


少なからず的外れな批判もあるし、高速道路でBEVを実験する本質的矛盾もあるけど、EVネイティブというユーチューバーは26歳という年齢を考えたら非常に優秀な「オピニオン・リーダー」だと思う。BEVは別に好きじゃないけど、よく調べていて為になるし面白いから見てるという層がチャンネル登録者の主体なのだろう。MAZDAやトヨタをボロクソに言ってた頃はまだ荒削りだと感じたけども、数年も欠かさず努力を惜しまない投稿を繰り返していれば、どんどん議論は洗練されてくる。若いからか成長が異様に早い。


高齢者がほとんどとなっているAJAJのライターは、10年前から変わり映えのしないレビューを書き続けている。読者はとっくの昔に飽きている。メンバーを入れ替えたくても他に人材がいない。小沢コージさんなどは例外で、10年前とは別人というレベルで変化している様子だけども、30〜40分のyoutubeライブを聴いていると、やっぱり根っこは変わっていない・・・と感じる時もある。10年前は「輸入車じゃないとクルマじゃない」みたいな空気がプンプンしていたが、現在はそれを押し隠して日本メーカーに胡麻をスリスリしていらっしゃる。



古い価値観の破壊


バリバリのバブル世代である小沢コージさんはやはり輸入車が好き。とりわけドイツ、イギリス、イタリアの高級車ブランドに絶対的な価値を置いていることは隠せない。それに対してZ世代のEVネイティブさんは、メルセデスもBMWも全く興味がないようだ。その辺の感覚にはいくらか親近感が湧く。伝統ある自動車メーカーへの敬意は持っているけども、「憧れ」という感情はほとんどないようだ。高級車ブランドでマウントを取ってくる上の世代に対して、BEV至上主義で逆マウントを取っている。



ちょっと残念なのが、個人的に好みのMAZDAが、「高級車マウント世代」からは、貧乏人のクルマと見做され徹底してバカにされ、「BEV至上主義世代」からも、BEV戦略で完全に立ち遅れたオワコンメーカーとバカにされている。多くのMAZDA好きは、とっくに諦めている。他者の意見を変えることは簡単ではない。クルマに関しては承認欲求などほとんどないからMAZDAを選んでいる・・・それは紛れもない事実だ。



BEVを過小評価する日本


EVネイティブさんによると、テスラ、ヒョンデ、BYDなど日本市場ではまだあまり認知されていないブランドがとてもクールらしい。機能と価格が絶妙で、補助金を満額貰い、アクティブ(10年30万キロ?)に使いこなせば非常に気分よくクルマが所有できる・・・みたいなことを本書では言いたいらしい。BEVはエンジン車と比べて部品点数も少なく故障のリスクは下がるだろうし、他にもフル電動の一元機能化でさまざまなメリットがあるようだ。


日本のカーメディアではBEV化のメリットを真面目に訴えるレビューはほとんどなかった。日本メーカーや、保守的な読者層に配慮し過ぎる余り、フェアな議論が交わされてきたとは言い難い。大手メーカーとの利害がほとんどない非AJAJの福野礼一郎さんがテスラ・モデル3をベタ褒めしていたくらいだろうか。そんな社会背景の中で、まだ26歳の若者がエンジン車を徹底批判しBEVのメリットを最大限に訴える姿は異質に映る。



2023年はどうなる!?


BEVの様々なメリットを理解できる場が、カーメディアの大人の事情もあって、日本ではなかなか目にすることがないけども、それが逆にEVネイティブ・チャンネルにはかなり追い風になっただろう。ちょっと前にトヨタが大々的にBEVへの参入することが発表され、今月の初めには2026年までに10モデル150万台という具体的な数字が出された。これまではひた隠しにしてきたけども、トヨタもBEVのメリットを十分に理解していて、今後は日本の既存カーメディアでもBEVのメリットが当たり前に語られるようになるのだろう。


日産がいくらBEVで世界に先行しても、トヨタが決断しない限りはカーメディアは動かない。テレビなどの一般メディアも大企業の意向を尊重して方針を決定する。小学館のような出版社も同様でEVネイティブさんの主張からすっかり「棘」が消えている。それでも2023年初頭のタイミングで、このような新書が発売されるに至ったのだから、小学館がトヨタの意向を汲み取って「BEVメディア解禁」を判断したのかもしれない。今年はBEV出版祭りになるのか!?



トヨタが慌ててBEV150万台を宣言


別にBEV推進派は「エンジン車を売るのやめろ!!」と過激なことを言っているわけではない。その主張の大部分はテスラ、ヒョンデ、BYDが主導権を争っている中で、日本メーカーがある意味で予想通りの慎重な姿勢しか取れないことに対する失望感を言語化しているだけである。少なくともEVネイティブさんには、働きたいと思える成長企業として、テスラ、ヒョンデ、BYDの方が、トヨタ、日産、ホンダよりも魅力的に映るのだろう。


世代によっては解雇が少ない日本の雇用環境が良いという意見もあるが、結局のところ大企業の「ステマ」に影響されているに過ぎない。そしてそんな世代もあと10年すれば労働市場では少数派になると思われる。航続距離500km級のBEVが、BYDだと440万円で買える。日本メーカー車と比べて耐久性が大きく落ちるとも考えにくい。トヨタが慌てて出した150万台宣言はBYDを意識したのだろう。さて・・・今後はEVネイティブさんがBEV化に踏み切ったトヨタ陣営に取り込まれるみたいなオチが付くのだろうかか!?



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