「本質価値を高めた」11代目シビック・・・まさかの日本COTYベスト10落ち

 

謎のキャラ

2021-2022日本COTYの10ベストカーは今月の頭にすでに発表されていて、日本市場向けという意味でホンダ枠はヴェゼルに譲った形でシビックは落選した。同時に行われている2022北米COTYではベスト3に残っている。シビックとしては過去に2度受賞しているので、11代目の主査を務めた佐藤洋介さんにとってもさぞかしプレッシャーのかかる開発だったのだろう。TVKの「クルマで行こう」に謎なキャラクターで出演し、岡崎五郎さんの鋭い質問に目を泳がせながら必死で答えていた。少々お疲れモードでヘロヘロな様子が伺える。


一言で全てを悟らせるすごい人!?

それでも事前に重大なメッセージを準備しての出演だったようで、冒頭にクルマのコンセプトを尋ねられると、躊躇することなく「本質価値が判断できる若い世代に向けて作りました!!」となかなか際どい第一声だった。完全にOFFな状態でボケー・・・っと番組を見ていたが、即座に心を鷲掴みにされた感じだ。「その一言」をずっと待っていた。ブログを書く中でクルマに関する世代の認識の差を常に感じていたから。


若者ユーザーの気持ちを代弁

現役バリバリの開発者からの思わぬ一言だったが、その背後に潜むあらゆる意味が推測できてしまう。2003年に免許を取った自分が若者かどうかは微妙なところだけど、親世代のクルマに対する認識にはかなりのギャップを感じていたので、そういう意味では「若者」になるのかもしれない。まず発言の趣旨を端的に言ってしまえば、日本でト○タ車を選んできた世代は「本質価値がわからない」から、ト○タの社長自ら「つまらないクルマ作り」だと批判しているト○タ車で満足している・・・そう解釈してもそれほど飛躍しているようには思えない。


時計にはお金を使うが・・・

別の見方をすれば、ホンダのリサーチでは、(賢くて稼いでいる)若い世代の多くが現行のクルマに300万円を投じたくなるほどの良いイメージを持っていない・・・といった結論が出たのだろう(おそらく正しい)。お金を持っていない訳でもないし、まだまだ現役で働く時間が長いので、50歳を超えた世代よりもお金を使うハードルは低い。実際にパテックフィリップやランゲ&ゾーネに300万円を平気で投じる若い世代は結構いる。ロレックスにしても上の世代はステンレスの70万円クラスで満足するけど、若い世代はピンクゴールドの200万円超えのものを積極的に選ぶ。ハイエンドな時計ほど換金も容易だし、将来に向けての投資に見合う価値がついてくる。それに対して日本市場の現行モデルのクルマには「格付け」がトリプルAのものは残念ながら皆無かもしれない。


豊かな人生のために

高品質な腕時計ほど流動性はないけども、クルマには自分の世界を広げる根源的で物理的な価値が備わっている。「どこでもドア」が発明されない限り、人生は移動時間から解放されることはない。満員電車の苦痛はテレワークや着席列車の普及で改善こそされているが、公的空間で過ごす移動と、私的空間で過ごす移動の「本質」的な違いを理解している人ならば、佐藤さんが言う「本質価値」という開発サイドの発言に敏感に反応してしまうはず。11代目のシビックは、100万円を超える高級腕時計と同じく「身分証明」としての非常に高い所有価値が備わっているといいたいのだろうか!?


つまり「モテるクルマ」だよね・・・

飛行機で離島まで行くなら話は別だが、東京や大阪からクルマで出撃できる「湯河原」や「城崎」などの、「本質価値」が備わる高級温泉旅館へは、公共交通機関で行ってはいけない。客が大挙して押し寄せる宿泊施設でくつろぐなんて昭和な発想だ。くつろぐ目的で常宿としているのは、いずれも客室5室以下の内風呂付きと決めているが、そんな場所にアクセスするクルマを真剣に作りました!!・・・と佐藤さんが発言している訳ではないが、そんなポジティブな着眼点があるとしたら、実に素晴らしいと思う。



最高のデートカーとは!?

「パートナーと温泉旅館&ドライブを楽しむクルマ」ランキングがあるとしたら、ホンダの中でシビックはインサイトと並んでトップクラスだろうか。勝手なことを書いてしまえば、NSXはいくら何でも肩肘張りすぎだし、S660はあまりにアバンギャルドすぎる。アコードやCR-Vは少々野暮ったい。ヴェゼルはちょっと車格が軽い。日本メーカーの中では「レクサス」の各モデルが丁度いいと感じている人が多いだろう。レクサスの強気な価格が容認される背景だろうか。



ホンダの輝かしい歴史

「昭和」の時分には、ホンダには「プレリュード」という伝説のクルマがあった。「平成」は初代NSXとS2000が似合う時代だったと思う。これらの時代にはホンダの基本モデルとして認識されていた「シビック」が、令和の時代では派生モデルの「インサイト」と共に、ホンダラインナップの花形ポジションに収まった。いつの時代もホンダとはユーザーの欲望を最大限肯定するクルマを作ってきたわけだ。



危機の時代は過ぎ去った

「シビック」の現在地点をふと考えたくなった。佐藤さんがテレビ媒体で堂々と「決意表明」したことに、カーメディアの新しい可能性が見えた気がした。「お年寄りから若い人まで幅広く満足していただけるクルマ」は2000年頃の業界再編と、中国メーカーの台頭が予見される状況での日本メーカーの守りの姿勢を表していた。しかし20年経ってみて海外の投資マネーによる影響は限定的で、日本の主要メーカーは見事に生き残り、恐れていた中国メーカー急成長など幻想だったのでは!?といった拍子抜けな状況だ。



日本の悪しきトレンド

「栄誉ある孤立」を保ってきたホンダは手堅い地域戦略を採ってきたが、再び個性を主張するクルマ作りをすると宣言したかったのだろうか。「若者だけを相手にしました!!」の言葉の裏にはどんな意図があるのだろうか!?クルマ好きならあらゆる想像を駆り立てられるだろう。「若者向けのモテるクルマ作りました!!」が本意なのだろうが、トヨタやスズキの若者に人気のワンボックス(車種はあえて挙げない)で採用されている「アグレッシブなカスタム顔」を配したヤンチャなクルマとは真逆の価値観のものを用意しないと、洗練された都市部の若者から「クルマはダサい」と思われてしまう。そんな危惧が11代目シビックのスタート地点かもしれない。



11代目にして初の・・・

そして何を隠そう10代目シビックの「ガンダム顔」も、若者をクルマから遠ざけるのに十分な役割を果たしていた。MT操作を楽しめてスペック十分の手頃な価格ではあったけど「温泉旅館&ドライブを楽しむクルマ」としては全く評価できない。初代〜10代目までは「モテる」クルマではなかった。4、5、6代目の高品質なサスは「伝説」ではあるけど、それはクルマ好きの間でしか通用しない。ホンダの佐藤さんは年相応に「イケメン」の部類に入るのだろう。モテる顔の主査が本気でモテるクルマを作りました。しかしそのままコピーにしたらハシタないので、メディア向けに「本質価値を高めた若者限定モデル」という聞きなれないスローガンになった。ダサくないクルマが欲しい人集まれ!!といったところか・・・。


<追伸>タイトルにある「ベスト10落ち」に関して、ホンダを揶揄する意図は全くありませんし、選考サイドの判断に異論を申し立てる気もありません。ただただホンダの開発者のキャラが気になったという話でした。


コメント